第二十一章 〜歯車〜

 

 

この前、別れたはずのルカが僕の前に駆け寄ってきて、何度も何度もごめんなさいと謝った。

でもそう言った彼女の表情はどこか前と違っていて・・。

一体彼女に何があったというんだろう・・。

 

「・・・じゃあルカ、君が歯車だと・・そういうのかい?」

リョウの困惑した表情を目にし、ルカはこくんと頷いた。

「黙っててごめんなさい・・リョウ。私、リョウたちと旅することが怖くて・・・。

自分の身に危険がせまることが怖かったの。」

ルカはそう言って目を閉じる。

「だから、嘘をついてリョウを自分から遠ざけようとした・・。」

サクラは隣でそれを聞いている。

彼女の言葉を聞き口の端を微かに上げた。

「じゃあ、君はどうしてここに来たのかなぁ?」

リョウとの会話に割り込みルカに問いかける。

「今、何が起こっているのか聞いたんです。

そして、大切な人を守る為には動かなきゃいけないって思ったから・・・。」

そう言ってルカはレオナの方に視線を移す。

 

 

「レオナ!?」

彼女の姿を見るとリョウは思わず声を上げる。

「久しぶり、リョウ。これでそろったのね、歯車。」

「君・・どうしてここに・・。」

レオナはそれには答えず、ルカが変わりに彼の質問に答える。

「レオナさんが、私に教えてくれたの。歯車の事。それに魔物に襲われたの助けてくれて・・。」

「ルカ。」

彼女の言葉をレオナが遮る。

名前を呼ばれた彼女は一瞬驚いた表情でレオナを見た。

名前で彼女に呼ばれたのはこれが初めてだったから。

「ずっと言おうと思ってたんだけど、さん付けはいいから。・・・呼び捨てでいい。」

それを聞いてリョウは苦笑する。

そう、彼女はさんやちゃんを付けて名前を呼ばれるのが嫌いだった。

それを聞いて、ルカは少し笑顔になった。

「はい・・・レオナ。」

彼女と少しずつだが、話が出来ているようで嬉しかった。

 

 

「それはそうと、ルカちゃん、久しぶり〜!」

微笑んでサクラが手を上げる。

改めて再会の挨拶。

「お久しぶりです、サクラさん。でも・・あの・・どうしてリョウと2人、ここに・・。」

気になってたこと。

彼らは自分たちが教えた嘘を信じて少し先の村に行ったのではなかったのか。

「サクラさんが、ここでもう少し待てば、きっと会えるって言ってたから。」

リョウは苦笑してレオナとルカを見る。

「勘だよ、勘。ルカちゃん達が十字架の痣を話してるとき、

あぁ、嘘ついてるなって感じたから。

ルカちゃんが歯車じゃないにしろ、何か手がかりつかめるかなぁって思ってさ。

ま、待ちぼうけの確率の方が高いと思ったけど〜。」

嘘だろ!という目でリョウがサクラを見る。

勘だったのか!!

妙に発言が自信めいている気がしたのだが・・。

 

 

「んで?君がレオナちゃん?」

サクラがレオナに向かって微笑む。

レオナはサクラに微笑みかけようとはせずに一言、「レオナ・スタルウッドよ。」

とだけ自己紹介した。

「君のこと、探してたんだぁ。リョウ君と2人で君が歯車かもしれないって話してて。」

「私は歯車じゃないわ。」

「どうやらそうみたいだね。」

「何が言いたいの。」

「別に〜?たださ・・どっかで聞いたこと、あるんだよね?君の名前・・。」

サクラの口端が微かに上がる。

「そう、何かの勘違いじゃないの?」

レオナは表情を崩さない。

「だといいけど。」

サクラも微笑んだ表情を崩さない。

2人の間に何か不思議な空気が流れ、リョウとルカは沈黙した。

 

 

「クロードは元気?レオナ。」

そんな空気を振り払うようにリョウはレオナに話しかける。

以前会ったときはクロードは兵士に捕まり怪我をしていた。

肩に止まっている様子を見るともうすっかり元気のようだ。

レオナは肩に乗っている鳥を見ると微かに微笑む。

リョウはそれを肯定と受け止めた。

リョウ達はクロードの正体を知らない。

そうルカはレオナに聞いた。

教えた方がいいことだとは思うが自分から話すことでもないし、無闇に話していいものでもない。

レオナかクロードが話すまで待ったほうが良さそうだ。

でも、クロードの正体を知ったとき、きっとリョウはびっくりするだろうな・・・。

そう思うと何だか可笑しくてルカはこっそり笑った。

 

 

「何はともあれ、歯車、無事に集結したんだね、リョウ君。」

その言葉でリョウははっと我に返る。

そうだ、第一の目的である「歯車」を集めることが出来たのだ!

リョウの顔に笑みがこぼれる。

「まぁ、一部歯車じゃない人もいるみたいだけどね?でも君も何か役割があるんだろう?」

何かひっかかる言い方でサクラはレオナを見る。

この2人、何か棘棘しい・・・。

初めて会ったはずなのに、この空気はなんだろう・・。

「そう、私は歯車じゃないわ・・。でも一緒に旅をしなきゃいけない・・。」

レオナもサクラを睨みつけ、冷たい口調で言い放つ。

まるで、天敵のような雰囲気だ。

 

 

「これから、よろしくね。リョウ。」

ルカがリョウに向かって微笑む。

「私も、自分に出来る事精一杯頑張るから。後悔しないように・・・。」

それはレノールでリョウがルカに言った言葉。

「うん。」

リョウも力強く頷く。

この先何が起こるか分からない。

どんな戦いになるのかも・・・。

でも、今、出来る事を、精一杯・・・。

 

 

リョウは空を見上げた。

 

 

運命の5人・・・。

 

これがはじまり・・・。

 

 

 

 

 

第二十一章 〜歯車〜  Fin 

 

第一部:運命の歯車編 (完)